生成AI活用、国内企業は4社に1社:最新調査が示す理想と現実

業界動向

はじめに:熱狂の裏で、企業活用はまだ黎明期

2025年、生成AIは技術的な進化を続ける一方で、ビジネスの現場ではその活用が新たなフェーズに入ろうとしています。しかし、世間の熱狂とは裏腹に、実際の企業活用はどの程度進んでいるのでしょうか。2025年8月に東京商工リサーチが発表した「生成AIに関するアンケート」調査は、その「理想と現実」を浮き彫りにする興味深いデータを示しています。

調査結果によれば、生成AIの活用を「推進している」と回答した企業は、全体のわずか25.2%。つまり、4社に1社しか本格的な活用に乗り出せていないのが現状です。本記事では、この最新の調査結果を基に、日本企業における生成AI活用の現在地と、多くの企業が直面している課題について深掘りしていきます。

データが示す「3つの断絶」

今回の調査結果は、生成AIを巡る企業間の「断絶」を明確に示しています。具体的には、以下の3つのポイントが挙げられます。

1. 推進派と静観派の断絶:半数が「方針未定」

最も衝撃的なのは、活用を推進している企業が25.2%にとどまる一方で、半数を超える50.9%の企業が「方針を決めていない」と回答している点です。これは、当ブログでも以前指摘した「認知と活用の断絶」が、依然として大きな課題であることを裏付けています。多くの企業が生成AIの可能性を感じつつも、具体的な導入計画や活用戦略を描けずにいる様子がうかがえます。

2. 企業規模による断絶:大企業と中小企業の「活用格差」

ITmediaの報道によると、活用を推進している割合は、大企業で43.3%に上るのに対し、中小企業では23.4%と、約20ポイントもの開きがあります。資本力や人材の豊富さで勝る大企業が先行し、中小企業が追随するという構図が鮮明になっています。この「活用格差」は、今後さらに拡大していく可能性も否定できません。

3. 目的の断絶:9割以上が「業務効率化」に集中

生成AIを活用している企業にその目的を尋ねたところ、実に91.9%が「業務効率化」を挙げました。資料作成、情報収集、文章の要約といった定型的な業務の自動化が中心となっているようです。一方で、「新商品・サービスの開発」や「顧客満足度の向上」といった、より付加価値の高い目的を掲げる企業はまだ少数派です。まずは足元のコスト削減や生産性向上から、という堅実な姿勢が見て取れます。

なぜ活用に踏み切れないのか?見えてきた「壁」

では、なぜ半数以上の企業が「方針未定」のままなのでしょうか。調査結果や周辺のニュースからは、いくつかの共通した「壁」の存在が浮かび上がってきます。

壁1:人材とスキルの不足

最大の障壁は、やはり「人材不足」です。AIを使いこなす専門人材はもちろんのこと、各部門でAI活用の企画を立て、推進できる人材が圧倒的に不足しています。全社的なデジタルリテラシーの底上げも急務であり、一朝一夕には解決できない根深い課題です。

壁2:セキュリティとガバナンスへの懸念

プロンプトに機密情報を入力してしまうことによる情報漏洩リスクは、企業が最も警戒する点の一つです。IT部門が許可していないツールを従業員が勝手に利用する「シャドーAI」の問題も深刻化しており、全社的なルール整備が追いついていません。攻めと守りを両立させた社内ルールの策定が、導入の前提条件となります。

壁3:コストと投資対効果(ROI)の不透明性

特に高度な活用を目指す場合、ライセンス費用や開発・運用コストは決して安くありません。その投資に見合うだけの効果が本当に出るのか、ROIを明確に算出することが難しいため、経営層が決断を下せないケースも少なくないでしょう。

まとめ:静観はもはやリスク。「まずやってみる」勇気を

今回の調査は、2025年時点での日本企業の生成AI活用が、まだ本格的な普及期には至っていないことを示しました。しかし、これは裏を返せば、今がまさにチャンスであるとも言えます。

マツダが400人規模の専任組織を立ち上げたように、本腰を入れる事業会社も着実に増えています。また、NHKが報じたように、経営判断の支援にAIを活用しようという動きも出てきており、業務効率化の先にある、より高度な活用フェーズを見据える企業も存在します。こうした企業は、いずれ「AI経営参謀」を手に入れることになるでしょう。

「方針未定」の5割の企業が静観を続ける中、まずはスモールスタートでも一歩を踏み出すことが、数年後の競争力を大きく左右するはずです。まずは身近な業務の効率化からAIに触れ、社内に成功体験とノウハウを蓄積していく。その地道な取り組みこそが、生成AI時代の覇者となるための最短ルートなのかもしれません。

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