「教える側」の競争が激化。生成AI市場は新たなフェーズへ
2025年夏、生成AIをめぐる業界地図に新たな動きが見られます。それは、大手人材サービス企業やプログラミングスクールによる「生成AI人材育成サービス」への本格参入です。パーソルイノベーションが「生成AI for Biz 実践型育成シリーズ」を発表し、プログラミングスクールを運営するdivも「テックキャンプ AI活用支援サービス」を開始するなど、企業のAI活用を「人材育成」の側面から支援する動きが活発化しています。
この潮流は、単なる新サービスの登場以上の意味を持ちます。生成AIの普及が「ツール導入」の黎明期を終え、いかに組織に根付かせ、価値を創出するかという「人材・組織実装」のフェーズへと完全に移行したことを示唆しているのです。
なぜ今、人材育成サービスが求められるのか？
大手企業がこぞってこの領域に参入する背景には、日本企業が抱える深刻な課題があります。
1. 深刻な「活用格差」とノウハウ不足
ツールの進化は目覚ましい一方で、多くの企業がその活用に苦戦しています。日本能率協会総合研究所の調査によれば、大企業の研究開発職でさえ、生成AIを業務利用しているのはわずか13.5%に留まります。これは、多くの現場で「何から手をつければ良いかわからない」「どう業務に応用すれば良いかイメージできない」という課題があることの裏返しです。
この「認知と活用の断絶」を埋める存在として、体系的な知識と実践的なスキルを提供する育成サービスへの需要が高まっています。過去の記事『生成AI、認知と活用の断絶：データが示す「次の壁」と越え方』でも指摘した通り、この壁を越えるには組織的なアプローチが不可欠です。
2. シャドーAIのリスクとガバナンスの必要性
企業の公式導入が進まない一方で、従業員が個人でChatGPTなどを利用する「シャドーAI」は水面下で拡大しています。これは業務効率化に繋がる可能性がある一方、情報漏洩やコンプライアンス違反といった重大なリスクを伴います。
企業としては、こうした野放図な利用を防ぎ、安全な環境でAIの恩恵を享受するための全社的なルール作りとリテラシー教育が急務です。このニーズが、ガバナンス構築支援を含む法人向け研修サービスの市場を押し上げています。詳しくは『「シャドーAI」の急増が促す、企業のAI戦略転換』でも解説しています。
プレイヤーから見る市場の多角化
一口に「人材育成サービス」と言っても、参入する企業の出自によってその特徴は異なります。
- 人材サービス企業（パーソルなど）: 既存の法人向け研修事業のノウハウと顧客基盤を活かし、階層別・職種別の体系的なプログラムを提供できる強みがあります。
- プログラミングスクール（テックキャンプなど）: エンジニア育成で培った実践的なカリキュラム開発能力を武器に、非エンジニア向けにも「手を動かす」ことを重視した研修を展開します。
- AIベンダー/コンサル（AI Shiftなど）: 自社ソリューションの導入実績に基づき、特定の業務領域（例：営業、マーケティング）に特化した、より具体的で即効性のあるノウハウを提供します。
このように、様々なプレイヤーがそれぞれの強みを活かして参入することで、企業は自社の課題やフェーズに合わせて最適な支援パートナーを選べるようになりつつあります。
「人」こそがAI活用の主戦場
生成AI業界の覇権争いは、これまでモデルの性能やプラットフォームの優位性が中心でした。しかし、今回の「人材育成サービス」の盛り上がりは、競争の軸が「技術」から「人」へと明確にシフトしていることを物語っています。
どれほど優れたAIが登場しても、それを使いこなし、ビジネス価値に転換できる人材がいなければ意味がありません。外部からのトップタレント獲得競争と並行して、いかに社内の人材を育成し、組織全体のAIリテラシーを底上げするかが、今後の企業の競争力を大きく左右することは間違いないでしょう。
自社だけでAI活用を進めることに限界を感じている企業にとって、これらの伴走型支援サービスは強力な選択肢となります。重要なのは、単発の研修で終わらせるのではなく、自社の事業課題と結びつけ、継続的な取り組みへと繋げていくことです。まずは、『「AI活用、何から始める？」に応える伴走型支援サービスの価値』を参考に、自社に合った一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
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