「効率化」の先へ、生成AIは「売上」に貢献できるか
生成AIのビジネス活用といえば、多くの場合「業務効率化」や「コスト削減」が主な目的として語られます。確かに、資料作成や議事録の要約、メール文面の作成といったタスクにおいて、生成AIは驚異的な生産性向上を実現します。しかし、守りの側面だけでなく、ビジネスの根幹である「売上」という攻めの領域で、生成AIはどれほどのインパクトをもたらせるのでしょうか。
この問いに具体的なデータで一石を投じる、興味深い調査結果が発表されました。Webマーケティング支援を手掛ける株式会社PLAN-Bが2025年8月に発表した独自調査によると、生成AIを活用して作成された「ニュース・お知らせ」ページのコンバージョン率(CVR)が13%を超えるという、驚くべき成果が明らかになったのです。これは、生成AIが単なる効率化ツールにとどまらず、直接的な売上貢献の原動力となり得ることを示す重要な事例です。
なぜ「ニュース・お知らせ」で高い成果が出たのか
今回の調査で特に注目すべきは、あらゆるコンテンツの中で「ニュース・お知らせ」という特定の領域で高いCVRが記録された点です。なぜ、創造性が求められるコラム記事やキャッチーな広告文ではなく、比較的定型的なこのコンテンツで成果が出たのでしょうか。
考えられる理由の一つは、現在の生成AIの特性と「ニュース・お知らせ」というコンテンツの相性の良さです。新製品のリリース、イベントの告知、業務提携の発表といった内容は、事実に基づいた情報を正確かつ簡潔に伝えることが求められます。これは、創造的な飛躍や深い感情表現よりも、構造化されたデータを分かりやすく文章化することを得意とする生成AIの強みが最大限に活かせる領域と言えるでしょう。つまり、目的が明確で型が決まっているタスクにおいては、AIは人間と同等、あるいはそれ以上のパフォーマンスを発揮する可能性があるのです。
これは、ビジネスにおけるAI活用のヒントにもなります。いきなり全てのコンテンツ作成をAIに任せるのではなく、まずは汎用型と特化型AIを賢く使い分ける視点で、自社の情報発信の中からAIが得意とする定型的・情報的なコンテンツを見つけ出し、そこからスモールスタートを切ることが成功の鍵となりそうです。
CVRだけではない、SEOへの波及効果
PLAN-B社の調査は、もう一つ重要な示唆を与えています。それは、生成AIによるコンテンツ流入と、自然検索からの流入の間に見られた相関関係です。これは、AIを活用して質の高い情報をタイムリーかつ継続的に発信することが、Webサイト全体の評価を高め、結果としてSEOにも良い影響を与える可能性を示唆しています。
企業にとって、Webサイトの「鮮度」を保つことは重要な課題ですが、人的リソースには限りがあります。生成AIを活用すれば、これまで手が回らなかった細やかな情報発信(例えば、小規模なアップデートや過去のニュースの再整理など)を高い頻度で実行できるようになります。この一貫した情報発信が検索エンジンに評価され、サイト全体のトラフィック向上につながるという好循環を生み出すのです。
生成AIは単発のコンテンツを作る「点」のツールではなく、Webサイト全体の価値を高める「線」や「面」の戦略を支えるエンジンになり得る、ということです。
成果を出すためのAI活用、3つのポイント
この調査結果から、私たちが学ぶべきことは何でしょうか。単に「AIを使えば儲かる」という単純な話ではありません。成果を出すためには、戦略的なアプローチが不可欠です。
- 得意な領域を見極める: まずは自社の業務やコンテンツの中から、AIの強みが活かせる「型のあるタスク」を見つけ出すこと。今回の事例のように、ニュースリリースや製品仕様の解説など、事実ベースのコンテンツは最初の試金石として最適です。
- 量と質の両立を目指す: AIの真価は、人間では難しい「質の高いコンテンツを、継続的に、大量に生み出す」点にあります。単に記事を一本生成して終わりではなく、それをいかに継続的な情報発信の仕組みに組み込むかが問われます。
- 必ず効果測定を行う: PLAN-B社の調査が価値を持つのは、CVRという明確な指標で効果を測定したからです。「AIを導入した」という事実だけで満足せず、それがビジネス指標(CVR、PV数、滞在時間など)にどう貢献したかを必ず検証する文化が重要です。もちろん、AIが生成したからといって品質が保証されるわけではありません。生成AI時代の成果物には、人間による最終的な品質保証が不可欠です。
生成AIをめぐる議論は、技術の目新しさを超え、いかにしてビジネス成果に結びつけるかという実践的なフェーズに移行しています。今回の調査は、その具体的な道筋の一つを照らし出す、価値ある羅針盤と言えるでしょう。
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